常世の国、茨城大会にぜひ参加を
茨城県 髙栖 敬
今年の全農研大会を茨城で開催することになりました。茨城での大会開催は今度で3回目となります。1980年に10回という節目の年に水戸で開催、その後1995年に25回大会を筑波で開催しました。3回目は農業の盛んな石岡市の八郷地区を中心に、これまでの取り組んできた、地域から学ぶ取り組みの一貫として開催します。八郷地区は周囲を筑波山・加波山などに囲まれた風光明媚な所です。明治初期に日本東北地方を旅したイサベラ・バードは米沢地方(置賜地方)をアジアの「アルカディア」(桃源郷)と称し絶賛しましたが、それに劣らず八郷地方も農村景観の美しい土地で、都会から多くの学者や文化人が移り住み、また脱サラで農業を営む新住民が増えています。
また茨城は、かつて常陸の国とも言われ、常世(とこよ)の国とはこの常陸の国ではないかといい伝えられています。常世とは永遠に変わることのない国、つまり神仙思想に見える不老長生の国と言われています。常陸の国は面積が広大で海山の幸に恵まれ、長生きする国ゆえに常世と言われました。現実にミカンもリンゴ作れる所から何でもできる土地と言われます。そうした土地柄が農業生産物全国第2位という農業の盛んな所となっているのでしょう。
そうした豊かな大地も、先の大震災によって家屋の損傷、津波の被害などの被害をうけました。震度6弱の地震で東海2号炉の原発は外部電源喪失、バックアップ発電機3台のうち1台が停止、あわやの事態となりました。また、福島原発事故によって放射能に汚染され、野菜や椎茸などの品目で出荷ができない状況が生じました。この問題は産直などで取り組む農家に大きな影響を及ぼしています。一度このような問題が起きると、取り返しがつかないということを日々痛感しています。
このような地で、困難な中でも多くの農家や農業関係者が頑張っています。農業後継者作りに取り組むJA八郷の取り組みや、都市と農村の交流活動を進める里山学校の実践、そして地元で頑張る農家や農業高校の取り組みなどがあります。これらを一堂に会して相互の実践交流と研究を深めたいと思います。大会は8月4・5・6日に筑波山麓で開催する予定です。多くの方の参加をお待ちしています。
「『生物育成』実践の手引き その1」の刊行にあたって
全国農業教育研究会
全国農業教育研究会(略して全農研)は、毎年夏季に大会を開催しており、昨年(2011年8月6~8日)は、大阪府立園芸高校を会場に、第41回大阪大会を開催しました。恒例の特別講演・シンポジウム・分科会に加えて、今回は主に農業科教員を講師に「実技講習」を企画しました。
これは、現地実行委員会の提案で今年度(2012年)から実施される中学校技術科の「生物育成」授業を展開するにあたって、その参考になればとの願いを込め、初めて農作物の栽培を生徒に指導する際の手ほどきといった内容を10部門開設し、実施したものです。
この実技講習をもとに、「農具の使い方」「土の働き」など栽培の基礎的な分野と、「種まきの基本」「ハクサイの栽培」など実際の方法をまとめて「『生物育成』実践の手引きその1」を作成しました。実習や実験などの実技指導は、座学の裏付けとなり「生物育成」の要となります。私たち全農研は、今回中学校技術科の必修となる「生物育成」の取り組みを小・中・高一貫した農業教育と位置づけており、この手引きを活用していただいて中学校の技術科で生物育成の実践が大きく広がることを期待しております。国民誰しも日本農業を正しく理解することが、世界的に食料事情の厳しい情勢の今日、きわめて重要な国民的課題だと考えているからです。この冊子が、いくらかでも実技指導の参考となり、これを機会に中学校技術科教員との交流が深まり、農の教育が理解され、内容豊かな取り組みがなされることを願っています。
この手引きを2012年2月に会員の皆様に送りましたが、それを見本としてできるだけ必要数注文いただき、最寄りの教育委員会、教育団体、教育関係者に配布・販売していただきたいです。会員以外のご希望の方は事務局までお申し出ください。謹呈分を除き 1冊300円(送料別)です。内容は以下のようになっています。
<もくじ>
「生物育成」実践の手引き刊行にあたって・・・・・・全国農業教育研究会
基礎編
農具を使いこなす・・・・・・・・・・・・・・・・・・髙坂 繁富 (3)
植物栽培における土の働きを理解する・・・・・・・・・林 周二 (5)
タネまきの基本 ・・・・・・・・・・・・・・・・・藤橋 雅嗣 (8)
栽培編
ハクサイの栽培 ・・・・・・・・・・・・・・・・・小塚 善三 (10)
プラグトレイを使ったパンジ-の種まきと育て方・・・・渋谷 清孝 (12)
応用編
ボカシ肥(ごえ)のつくり方 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 西村 和男 (14)
発酵肥料と有機殺虫、殺菌剤・・・・・・・・・ ・・・ 塚本 昌孝 (15)
特別編
校内の樹木の手入れ ・・・・・・・・・・・ ・・・ 髙栖 敬 (17)
ジャガイモの比重によるおいしさ実験・・・・・・・・・鮎澤 義雄 (19)
(補遺)
作物栽培と肥料の施し方 ・・・・・・・・・・・・・・鮎澤 義雄 (22)
1月28日、福島県庁を訪れた平野達男復興相は、佐藤雄平知事と会談し、知事が要望していた県内の18歳以下の医療費無料化を、「医療制度の根幹にかかわる問題」と見送る政権の方針を伝えた。放射線被曝が福島の子どもたちの将来の健康を脅かしているときに、国として特令を発動してでも真正面から向き合うべきと憤りを禁じえない。知事は、単独で無料化を導入する方針を示した。
1月下旬、当地としては珍しく降雪続きで毎日雪かきに追われている。積雪の遮蔽効果なのだろうか、発表される福島市の空中放射線量の値がここに来て大きく下がった(元旦:0.9→1月31日:0.65μSv/h)。空中放射線量の値はともかく、事故原発が撒き散らした放射能は、いたるところで市民生活に大きく影を落としている。
埒もない小生の定年帰農生活でさえ大きな狂いが生じてしまった。まず、田舎暮らしの醍醐味である野遊びが×。春の山菜、夏の渓流釣り、秋のキノコ採り、全て獲物が放射能汚染の恐れ有りということで御法度に。残されたのは冬のスキーだけということで、12月下旬から週1のペースで出かけてはいるが、他県からの修学旅行生の姿は皆無で一般客も少なく、リフトや食堂なども全施設開放とはなっておらず、うら寂しいばかりだ。
野遊びと並んでの大打撃は、有機無農薬の自給菜園だった。圃場外から草や落ち葉を持ち込むことははばかられ、堆肥作りが暗礁に。石灰代わりにしていた薪ストーブから出る木灰も散布不可に。この冬は、貴重な有機資材である生ゴミと木灰を、“可燃ごみ”として市の焼却炉に送っている(晩秋には落ち葉も同じ扱いをした)。健康的循環型農法は放射能により抹殺されたままだ。我が家の手作り加工品の超主力、干柿も放射能により抹殺されてしまった。昨年11月、福島市にも柿の乾燥加工・出荷自粛令が出されたからだ。例年なら3000個以上の干柿のスダレが2階のベランダを埋め尽くし、歳暮として叔父・叔母や友人に送って喜ばれ、二次加工品の柚子柿巻きは境野米子さん(全農研第40回福島大会シポジウムコーディネーター・境野健兒氏夫人)のブログ上でお褒めいただいていたのに・・・。枝もたわわの柿の実が収穫されずに雪の中で朽ちている、むなしい光景をこの冬はあちこちで目にする。
雪中で朽ちるのを待つ蜂屋柿
(1月31日記)
福島県福島市在住 菅原 宏一